はじめに¶
- 船舶の建造・修繕ドック用のドックゲートのモデリングを行なう
- フローティングゲート と フラップゲートとの比較をもとに話しを進める
- フローティングゲートは、扉船とも呼ばれモデリングの際は、船舶の手順が使えると思う。
- この章ではフラップゲートのモデリングを行なう。構造自体は複雑でない。船舶のモデルうち、構造モデルのみでよい。
- フラップゲートのモデリングでは、重心・浮心を通常の運用(開閉動作)パターンと据え付け作業パターンで検証する。
- 有限要素法(FEM)をFreeCADで行なう。
ドックゲートについて¶
船舶や航空機と比べて、一般にあまりよく見るものではないので少し解説を入れた。早速、モデリングについて知りたい場合は、フラップゲートのモデル節に進むとよい。
ドックゲートは、ドック(船渠)に船舶を入渠させる際に開いて、出渠させる際に開ける。 開閉のパターンの違いで2つの種類のゲートがある。フローティングゲート と フラップゲート である。 日本の造船業界では「ドックゲート」、「扉船」という表現で呼ばれるが、海外ではケーソン「caisson」とか「caisson gate」と呼ばれているようである。材質は鋼製であり表面を塗装しているものが多い。
フローティングゲート¶
フローティングゲートは「扉船」と呼ばれ、タンクのバラストを調整することで船のように浮上・沈下する。浮上し移動させることで渠口を開き、沈下させながら渠口を閉じていく。動力はないため、ウィンチやタグボート等で渠口まで誘導し、渠口に接近したらドック排水をしながら、渠口の戸当り面に水密部を密着させ、ドック排水が終わるとドライドックとなる。ドライドックになるとゲートは水圧を受けて閉じた状態になる。このときゲートにたわみを生じるが、それが水密性能を損なわないようにしなければならない。水密部はゴムを使うが、圧縮を一定の位置に保つため押え板を設置する。 船と同じような操作になるため、上げ潮、下げ潮の影響をうけやすい。開閉には熟練の経験・知識が必要となる。
次の画像が参考になる。
フローティングゲート参考画像

出典: Boston National Historical Park 拡大画像はこちら
フラップゲート¶
フラップゲートは支承部を中心として、自重で倒伏し渠口が開き、ワイヤー等で起立させ渠口を閉じる。渠口に接近したらドック排水をしながら、渠口の戸当り面に水密部を密着させ、ドック排水が終わるとドライドックとなる点は、フローティングゲートと同様である。水密構造もフローティングゲートと同様である。 ワイヤーウィンチの操作で開閉できるので、フローティングゲートと比べると容易で、時間・労力がかからない。上げ潮、下げ潮の影響は受けるが、操作で意識することはなくウィンチで自動制御できるようにしておくとよい。

出典: 三重津海軍所跡 詳細はこちら
その他のゲート¶
渠口の開閉を渠側のドッククレーンで行なものもある。大型のドライドックではなく船台サイズの渠口に使われるようだ。
フラップゲートのモデル¶
断面を2D CADで描いてExtrudeすればよい。タンク構造があるので外板の板厚分を論理演算でカットしている。実際にはタンク内の補強部材等があるが、まずは仕組みの説明のための平板だけのモデルとしている。

画像の説明の補足をする。
| 区画 | 補足 |
|---|---|
| 上タンク | 水抜き孔(画像の円形の孔)を通じて、潮位にあわせて水が入ったり出たりする。上タンクは海側に突き出ているのでドック注水が終わりと外海の圧力差がなくなると自重で倒伏していく。水抜き孔を塞いでタンク内の水位を制御することで、浮上・取り外し、沈下・据付を行なう事例ある。 |
| 中タンク | 浮力タンクになっている。 |
| 下タンク | バラストタンクになっている。通常の運用では区画内は満水の計画とする。バラストタンクから水を抜くとゲートは浮上して外すことができる。取り付けの時はバラスト水を注入しながらゲートを沈めていく。重心を下げるためにコンクリートバラストを詰めるケースもある。 |
このモデルをつかって、潮位の条件や、ドックゲートの幅・高さをもとに設計を行なう。倒伏は自重でされるが、起立についてはワイヤー等で抱き起こしする必要がある。 まずは開閉動作がなされるかどうか、ゲートの重量・重心の位置や所要のワイヤー張力等を計算する。次に据付工事ができるかどうかを計算してく。
フラップゲートの据付け¶
ドックゲートは、ドライドックで建造し、進水、浮上、出渠・シフトさせ据え付けを行っていく。
ドックゲートの重量や高さに十分な吊り上げ荷重や揚程をもったクレーンがあればよいが、大きいもので幅約70m、高さは10m〜15m未満、重量は1,000Tonを超えるケースもあり、 クレーンでの据付はあまり実用的とは言えない。
そのため、開閉動作ができるかどうか以外にも、進水、浮上、シフト、その後据付のための起立と沈下ができるかどうか、いずれのフェーズにおいても十分な安定性を確保できるかどうかを検証する必要がある。
検証が必要なフェーズとしては、次のものが考えられる。拡大画像はこちら

| No | フェーズ | 検証内容 |
|---|---|---|
| 1 | ゲート閉 | 水圧差でドック戸当りに押し付けられている状態。重量>浮力の状態であること |
| 2 | ゲート開 | 水圧差がなくなったとき、自重で倒伏していくこと、ワイヤーで起立できること |
| 3 | 進水・浮上 | 進水・浮上が水平姿勢でできること |
| 4 | シフト | 上部タンクの水抜き孔が浸入しない喫水が確保できること |
| 5 | 起立 | 起立の際は振り子運動をするので動安定性が確保でき、最終的に据え付け姿勢で安定すること |
| 6 | 据え付け | 静安定、動安定ともに確保できていること |
有限要素法(FEM)¶
FreeCADでの有限要素法(FEM)は次の流れになる。今まではPart機能でShapeを扱ってきたが、FEMではMeshを使う。
graph LR
A[Shape作成] --> B[Shape→Mesh];
B[Shape→Mesh] --> C[制約条件等の設定];
C[制約条件の設定] --> D[FEM適用];
制約条件等は次の通り
- 材料の物性値、ヤング率等を設定
- 渠側の戸当り、渠底の戸当りで拘束
- 水圧による荷重がかかる
FEMの結果は次の通り

上タンクの中央部に荷重が集中している。実際のフラップゲートでは、この荷重が集中している箇所に厚板でダブリングを行い補強している。 ダブリングを行うと重心の位置も変わる。重心の位置を変えたくなければ、ドック側だけでなく海側にもダブリングを行って重心の位置を変化させない等の工夫がドックゲートの場合は必要になる。
フラップゲートのサイジング¶
例題として約15mの高さのフラップゲートを約11mのサイズにスケールダウンする。本体サイズ全体を11/15の比率でスケールダウンするが、潮位の条件はかわらない。図示すると次の通りである。

スケールダウンしたドックゲートは、干潮のときに上タンクに水が入らない前提となる。
上タンクは水抜き孔を塞いで、残水をポンプで抜き取ると浮力タンクとなる施工実績は過去にあった。
中タンクの浮力は据付状態でも浮き上がらない程度の浮力となる。 取り外すときはさらに浮上させる必要があるので、下タンクをバラスト水を抜く仕組みがあれば、下タンクが浮力タンクになる。
このように、フラップゲートをサイジングする場合、潮位の条件を考慮し、上タンクと中タンクの浮力特性を考慮した上で、検証が必要になると思う。
まとめ¶
フラップゲートは一見シンプルな構造に見えるが、据付状態だけでなく、取り外しや建造等が実現できる構造としなければならない。既設のフラップゲートのリプレイスであれば、既存の設計を基に、機能を追加するか、若干の構造を変更することが多い。一方で、新規にフラップゲートを建造する場合は、類似のものがあっても、潮位の条件と浮力特性を考慮し検証が必要になる。
フラップゲートの建造事例はあまり多くない。何十年か前に設計・建造したものはあるが、そのとき携わった技術者はいないため、3Dプリントで模型をつくって水槽実験をしたり、施工関係者との打合せで模型を使って知恵を出し合うフェーズを確保するのが望ましい。
3Dプリントだけでなく、最近はVR技術等も使いやすくなってきたので、投資家、経営者他、利害関係者に対する説明に活用した方がスムーズだと考える。